Magical Light Music(仮)についての小難しいあれこれ

今回「Magical Light Music(仮)」でメイン機材として使用したサーキットベンディング改造を施したCASIO DY-30は、サーキットベンダーなら分かると思うのだが、CASIO製品独特のクセが強い素材だった。CASIO製品に積まれているチップはYAMAHA製品のそれと比べてとにかくフリーズしやすく、うまくバグらせることができてもそのバグった音は数秒間のループ状態になる場合がほとんどで、フレーズサンプリングしてしまえば済むような感じの音しか引き出せない。対するYAMAHA製チップは時間の経過とともに少しずつループ状態の音が解けてきて、それ単体で音楽として聴けてしまうようなフレーズに変化することが多い。ただ、YAMAHA製チップは通称「ツンデレチップ」と呼ばれていて、バグらせるポイントを見つけるまでに少々時間がかかる(笑)。対するCASIO製チップはすぐにバグポイントを見つけることができる。一長一短なのだ。

正直、YAMAHA製チップを積んだ機材をサーキットベンディング改造したものを使えばレコーディングにおける「録れ高」は非常に高いので、とりあえず膨大な数の音源を採取することがアルバム制作の第一歩となるオレのやり方にはとても合っている。だが今回は敢えてCASIO製チップを積んだ機材を選んだ。修行僧のごとく、より集中してストイックにCASIO製チップと向き合うことで今までに出会ってきたバグフレーズのさらに向こう側を引きずり出してみたいというのが制作動機のひとつでもあった。そしてそれは思っていた以上に苦しく地味な作業の連続だった。始めのうちは10回バグらせるとそのうち数回は「お?イイじゃん!」てな感じで面白い音が録れるのだが、だんだん回数を重ねていくうちに10回に1回とか20回に1回といった風に「録れ高」の確率が極端に低くなってくる。そしてそんな感じで何百回もバグらせているとそのバグにも規則性というか、パッと聴きはイイ感じのフレーズに聴こえるのだが、よく聴くと既に録ったフレーズのちょっとしたバージョン違いなだけだったりして、だんだんとチョイスがシビアになってくるのだ。

恐らくCASIO製品を改造してきた世界中のサーキットベンダーたちでも、このアルバムに収録されている音は今までに聴いたことがない音ばかりのはずだ。そういう音だけを採取してアルバム化した。ここまでDY-30のポテンシャルを引き出したのは後にも先にも多分オレだけだろうと思う。そしてそれは誰からも褒められることなく誰からも理解されることのない、完全なる自己満足であり完全なる自己完結である。むしろそれを目指して作り上げたアルバムなので、それでいい。でもできることならいろんな人に聴いて欲しい(笑)。

Kaseo [bEnt or diE?]

circuit bending ライヴやイベントのお誘い、お問い合わせはkaseo@mac.comまで。

0コメント

  • 1000 / 1000